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調布の定食屋

30年古びない空間をつくる

巷の改修物件に出会う度、流行中のスタイルの模倣が目的だと感じる事が多い。ブルックリン風、パリのアパルトマン風、といった具合に。それへの評価はやはり流行の変動に大きく依存することになるのだが、施主の要望は、30年経っても古びない空間、であった。

計画は調布の築40年の木造建築の定食屋への改修である。「戦後レトロ」スタイルを容易に形づくれそうな要素が散見されるが、その要素を残しながらもスタイルを連想させない状態を作る事が流行の変動に揺らがない空間に繋がると考えた。「レトロ」感を生みだしているのは、古めかしい素材や工法、納まり、パターン、色等のセットだろう。そこでそのセットのいずれかを取り出し目新しいものにすり変える、あるいは新たに挿入する要素内にコピーし既存の要素に隣接させる。それらの操作の反復によって要素による分節と新旧による分節が一致しない状態を作ることで、空間から「レトロ」感を抜こうとした。

 

40年前のスタイルを洗い落とす

具体的には、既存の外壁と同色同寸法の施釉タイルを内壁及びカウンターの垂直面全てに貼った。そして目地モルタル充填後、内部床、内壁の目地、さらに外壁の既存目地まで金色のパール塗料を塗りこめた。目地に塗られた鈍い金色が床全体まで広がる。本来タイルと目地は同時施工のはずだけれど、それぞれの施工範囲がずれて見える。

既存トイレの窓の表面の60年代の型板ガラスのパターンを、新設の球面ガラスの手洗いボウルの表面に酸洗いと切子により設けた。同じパターンをまといながらも工法が全く異なる二つの要素が狭小のトイレ内で同時に現れる。他にも裏庭増築部分と外構、既存の窓と枠、万年塀と開口部など新旧を不可分にする操作を繰り返した。

 

300年前のスタイルを復元する

敷地は旧甲州街道に面するが、17世紀にこの道ができてから短冊状に伸びた地割が残存する。当時は街道沿いに町家、裏に農地、通り土間で連結、という構成が一般的だった。これも言わばスタイルだが上述した「レトロ」な要素に比較したら桁違いに古く、今は失われつつあるが数百年続いたものであるため復元した。敷地裏に過去の農地の名残で広がるだだっ広い駐車場を活かし内部の奥に開口部を設けて通り土間のような空間とした。外からの光を反射、増幅するのは床に流し込まれたエポキシ樹脂であり、ここでも新旧を織り交ぜた。

 

設計: 2015/6~2015/8

施工: 2015/9~2015/10

(PHOTO BY SATOSHI TAKAE)

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